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一度は行くべき美術館(1)足立美術館


「作品や作家には詳しくないけど、観るのは好き」という人も愉しんでほしい、

芸術の秋にピッタリの特集『一度は行くべき美術館』をご用意。

知ってるようで知らない、作家や作品、建物、展示方法…芸術への“興味の種”を探っていきます。


18年連続「庭園日本一」の称号を誇る美術館

第一弾は、島根県安来市にある「足立美術館」。5万坪に及ぶ広大な日本庭園と横山大観をはじめとする近代・現代日本画などを鑑賞できる。アメリカの日本庭園専門誌で2003年から18年連続「庭園日本一」に選ばれている名美術館だ。

創設以来の基本方針は、「日本庭園と日本画の調和」。日本人でも外国人でも、誰しもその美が分かるであろう日本庭園を通して、日本画に馴染みがない人も魅力を知ってほしいと、地元出身の実業家・足立全康氏が1970年に設立。当時、全康氏は71歳。御歳71でゼロから美術館を造るというバイタリティもだが、そこから約20年間、91歳で亡くなるまで館内の自宅に住みながら庭園に手を入れ続けたという情熱にまず驚かされる。

足立美術館外観

そもそも全康氏が日本庭園に興味をもったのは幼少期、近くにあった雲樹寺(うんじゅじ)の庭園美に感動したのがきっかけのひとつだとか。その後、横山大観の作品に出合ってこれまた感銘を受ける。その後、尊敬するあまり約120点も収集することに。すばらしい作品を観てもらうために美術館を造り、多くの人に足を運んでもらうため、また飽きさせない仕掛けのひとつとして、ほかにはない日本庭園を造り上げたというわけだ。

横山大観特別展示室

多様な庭園の鑑賞方法とは

春はサツキ、夏は新緑、秋は紅葉、冬は雪景色と、四季を通して美しい景観が広がる。一般的に、庭園内を散策しながら景観を楽しむのを想像するが、こちらは館内から庭園を眺めるという、ひと味違う鑑賞スタイル。「庭園もまた一幅の絵画である」と、四季折々にうつろいゆく庭園を、生きた日本画のように鑑賞してほしいという全康氏の想いから生まれたものだ。早速、順路に沿ってピックアップしていこう。

「苔庭」

杉苔を主体とする庭園。瑞々しい新緑の時期や、雨の日はサツキやツツジの刈込が艶めき、濡れて黒く光る庭石が趣たっぷり。また、11月中旬~12月上旬にモミジが彩る紅葉の時期は、白砂や苔の緑とのコントラストが相まって美しいと評判。季節や天候によって変わるいろんな表情が魅力だ。

「枯山水庭」

同館の主庭。背後に連なる勝山を借景とし、白砂や芝生との融合が見事。この壮大な景観のポイントは、丘を沿うように植えられた赤松。ひとつながりの大きな庭園のようで、実は勝山と美術館の間には田畑や川、道路があり、結構距離がある。赤松によって生まれる借景との一体感と、巧みに配置された植栽など、その美しさに感心しきり。秋には雨上がりの朝、借景の山々に虹がかかることも。年に1回見られるかどうかの貴重な景色は、出合えたら確実に気分が上がりそうだ。

「生の額絵」

窓枠を額縁に見立て、鑑賞する枯山水庭はまさに生きた絵画。ドラマチックに演出された庭園に自ずと期待が高まるのを感じる。

「亀鶴の滝」

1978年に開館8周年を記念し、横山大観の名画「那智乃瀧」を表現し造られた高さ約15mの人工の滝。きっかけは全康氏が借景の亀鶴山を眺めていた時に、「滝のイメージが浮かんだ」というインスピレーションから。「滝水が枯山水庭に流れそそぐ」という意図があるそうだ。どの庭園にも言えるが、角度次第で変わる計算され尽くした景観や、それぞれのストーリーに膝を打ちまくりだ。

「池庭」

池には鯉が泳ぎ、優雅な雰囲気。実際以上に広く見えるように、植栽の配置を工夫するといった手法も見どころ。

「生の掛軸」

同館の名物のひとつ。床の間の壁をくり抜くという斬新なアイデア!先に広がる白砂青松庭が一幅の山水画のようで、気付けばその世界観にグーッと引き込まれる。

「白砂青松庭」

館内の順路的には最後、「大観の世界を表現したい」との全康氏の思い入れが強い庭園。横山大観の名画「白沙青松」をイメージし、白砂の右の丘に黒松、左に赤松を配することで対照的な美しさを表現。特に右の黒松の辺りが作品のイメージに近い構図だとか。ここは唯一、ガラス張りではなく外を眺められるので、写真スポットとしても人気。

隙がないほどの日本庭園を保つ「庭園部」

これだけの庭園を維持管理するには、大変な苦労があるはず。実は同館には、美術館としては珍しい「庭園部」があるとのこと。専属の庭師が7名所属し、365日毎朝お客様の目線で館内を回って手入れや掃除を徹底。美術館の職員も共に掃除をしており、朝訪れると落ち葉が全くないのはそのため。その日に落ちた葉だけと思うと、また違った視点が生まれてくる。

一木一草、石の大きさまでこだわっていた全康氏の想いを受け継ぎ、植栽を美しく、そして借景に合うように隈なく手入れされている。全康氏はなかでもスラッとした赤松がお気に入りで、庭園内には約800本。赤松の多くは能登半島から仕入れており、元々の生育状態のまま、あえて斜めに植えるといったこだわりも。

さらに、欠かせないのが剪定作業。最も本数が多い赤松は年に1回、7月~9月下旬にかけて実施。不要な枝をハサミで落とし、古葉を手で摘み、赤色の幹が現れるように約30㎝の手ぼうきで古皮を落とす。これらを1本1本手作業で行うなんて、素人は聞いただけで気が遠くなる…。

また、必要に応じて樹木の植替えもあるため、「仮植場」という樹木をストックしておく場所が4カ所あるそうだ。そこに予備の赤松が約400本、もはや別の庭とも言うべき仮植場の手入れ管理も庭師の仕事。ほかにも池や滝の掃除など、多岐にわたる庭師の方々の努力の賜物だと実感する。

横山大観をはじめとするコレクションを鑑賞

近代日本画壇で活躍した巨匠たちの作品を多数コレクションしており、なかでも横山大観の作品は初期から晩年に至る約120点を所蔵。庭園の四季に合わせて展示替えを行っており、作品を順次公開。また、現代日本画の収集にも力を入れているほか、北大路魯山人の書や陶芸、童画、木彫など、約2000点の所蔵数を誇る。

横山大観「紅葉」(左隻・1931年)足立美術館蔵
横山大観「雨霽る」(1940年)足立美術館蔵

横山大観の作品は横山大観特別展示室で常時約20点を鑑賞できる。大観作品の中でも絢爛豪華な「紅葉」や、全康氏の特別な思い入れがあるという「雨霽る(あめはる)」、庭園のモチーフとなった「白沙青松」「那智乃瀧」まで、これほどの名品を一代で収集した全康氏の情熱を改めて感じた。

日本庭園と日本画をはじめとするコレクション。その魅力にどっぷり浸れる仕掛けが満載の美術館だ。

  • 施設名:足立美術館
  • 住所:島根県安来市古川町320
  • 開館時間:4~9月/9:00~17:30、10~3月/9:00~17:00 ※新館への入場(本館・新館連絡通路の通行)は、閉館15分前まで
  • 休館日:年中無休 ※新館のみ、展示替えのため休館日あり
  • 入館料:大人2,300円、大学生1,800円、高校生1,000円、小中生500円
  • 問い合わせ:0854-28-7111
  • URL:https://www.adachi-museum.or.jp

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