シフトする人#3 alpaca to hana 有吉美由紀さん
花に新たな命を吹き込こむアクセサリー
突然だが、普段みなさんが花を買うのはどんなときだろう?機嫌がいいとき?良いことがあったとき?筆者は断然、気分が落ちたときだ。仕事がうまくいかない、人間関係でモヤモヤ…とにかく陰気を感じたら花を買って飾る。部屋がパッと明るくなるとともに、不思議と心も晴れやかになってくる。
今回の主役は、そんな“花のもつ力”によって人生を変えた女性である。花を身につけるためのアクセサリーを手がける『alpaca to hana』の有吉美由紀さんだ。すでにファンだ、という方もおられると思うが、本物の花や葉を特殊加工し、樹脂でコーティングした『alpaca to hana』のアクセサリーは本当に心がときめく。植物を使ったアクセサリーは他にもあるのだが、繊細な美しさは唯一無二といっても過言ではない。光が透過すると鮮明に浮かび上がる葉脈がたまらなくいい。“生命美”といえばよいのか、本物の植物がもつ、はかなさと力強さが感じられる。
ちなみに筆者が一目惚れした、「アジサイノハナタバ」と名付けられたピアスは大振りで存在感が半端ないのだが、品があるため、悪目立ちすることはない。なによりつけているだけでテンションが上がる。人から褒められることも多い。服を選ばないのもまたいい。なんだか止まらなくなってきた。筆者の『alpaca to hana』愛はこれくらいにして、その生みの親である有吉美由紀さんの話をしよう。
きっかけは、ふと目にした花屋に並ぶ花
花のアクセサリーを手がける有吉さんの原点が意外でオモシロい。社会人一年目である20歳の頃、会社でしこたま怒られて帰宅途中、ふと目に止まった花屋の花だという。
「当時、営業事務課で働いていて、先輩に怒られるのは日常茶飯事。ある日、ついに始末書を書く羽目になって、とても落ち込んでいました。そんな私を癒してくれたのが、花屋に並ぶ花だったんです」
花のもつ力に勇気づけられた有吉さん、もっと身近に花を感じたいとアレンジメント教室に通うことにした。
「ちょうどその頃、ドライフラワーでアレンジメントを作りたいという思いもあったんです。というのも、花を贈ってもすぐに枯れちゃうのが嫌で、以前花屋さんにドライフラワーで、とオーダーしたらできませんって。だったら自分でやるしかないと」
趣味の花がいつしかプロの道へ
資格を取得したり、コンクールに挑戦したり。趣味であった花の世界だが、やがてもっと高みを目指したいと思うようになってきた。2年後、教室とともに会社を辞め、フラワーデザイナーとしての一歩を踏みだす。勤め先は百貨店生花部。
おっとりとした雰囲気の有吉さんからは想像できないが、最初は“自分にしかできないもの”を提供したいと、尖っていたという。
「もちろん、お客様の前でそんな態度はとりませんが、心の中では販売スタッフとしてあるまじき思いが渦巻いていました(笑)。でもお客様が喜んでくれる姿をみるうちに、“自分を出す”より、喜んでいただけるものを作る方が楽しいと思えるようになったんです」
外資系ブランドやメーカーなど企業の専属フラワーコーディネーターとして、ショーウィンドウやテーブルウェアのディスプレイを手がける経験も積んだ。順風満帆に思えた32歳のとき突如仕事を辞めてしまう。
「結婚も理由のひとつですが、気の迷いですかね(笑)。そして、あんなに向いてないと思っていたOLに戻りました」
周囲からは「もったいない」と惜しまれた。そこで友人たちがオーダーしてくれるアレンジメントを請け負い、その作品をブログで紹介することにした。魅力的なものは必ず誰かの目にとまるものである。ブログに多くの反響が寄せられた。仕事のオーダーも舞い込んだ。やはり花の世界に戻ることにした。
蚤の市での成功と出会い
会社を辞めたその日、かつて耳にした「素敵な蚤の市」のことをふと思い出した。調べてみると運よく出店募集中だ。実はこの蚤の市、地元福岡では名の知れたイベントで、出店競争率はかなり高い。出店者には高いセンスが求められる。そんなことはつゆ知らず、実店舗をもっていることという出店条件もお構いなしに応募した。これが見事合格する。
ドライフラワーを作り、買った人が自由に使える素材として販売した。空間づくりにもこだわり、アンティークなインテリアと花のある空間を演出した。今とは違い、お洒落アイテムではなかったドライフラワーだが、有吉さんのブースに漂う、パリの蚤の市のようなシャビーシックな雰囲気がうけた。長い行列ができた。未来に繋がる出会いも多くあった。なかでもドライフラワーの商品を依頼してきたアパレルショップの店長との出会いは、有吉さんの人生を大きく左右することになる。
「実は、花のアクセサリーを提案してくれたのはその方なんです。お花のアクセサリーを作ってほしい!お店で扱うよって」
もちろん、アクセサリー製作の経験はない。しかし百貨店時代に培った“お客様の要望に応える”精神に火がついた。季節はクリスマス前。ホワイトクリスマスをイメージし、白く染めた花を使った作品を作った。我ながら、今までにない新しいアクセサリーができたと思った。商品は1カ月足らずで完売。『alpaca to hana』の誕生である。
『alpaca to hana』のこれから
ブランドを立ち上げて8年、今や全国区となった『alpaca to hana』。「ベイクルーズ」や「SHIPS」で取り扱いされる他、全国の百貨店でのイベントに出店すれば完売である。ミモザやスズランなどを使った小ぶりのアイテムが増えたものの、根底にあるのは、「花をより長く手元においてほしい」という思い。
「20歳の頃、半泣きで帰っていた私を癒してくれた花たち。そんな花のパワーをアクセサリーとして身近に感じてほしいというのが私の願いです。身につけると元気になれる、お守りみたいな存在——それがブランドとしての理想ですね」
現在、産休育休等で休職している5名を含め、男女計19名の製作メンバーを抱えている。今後は海外展開を含め、事業を少しずつ拡大していく予定だという。働きたい意思のある労働者が長く働ける、休みも気兼ねなくとれる、労働者ファーストの職場づくりにも意欲をみせる。
「お気づきかと思いますが、私は自分の力でガンガン道を切り開いたのではありません。周りの人に助けられてここまできました。職場という狭い範囲ではありますが、今度は私がメンバーにあたたかい環境を提供できたらいいなと思っています」
alpaca to hana