アラフィフ新境地#2 「遅咲きの嗜み、紅葉を愛でる」福岡 千如寺
50代を丁寧に過ごそうと決意した編集者が、日々を見直したり!非日常の旅をしたり!新しいことにチャレンジしたり!そんな新境地で得た、ニッチでトリビアな雑学をブログに綴ります。
そろそろ紅葉の季節だと思っても、いつもその時期を逃すばかり。おそらく、そんな嗜みもない慌ただしい日々を送っていたせいでしょうね。ですが、今は違います。そうです、ゆとりを持ち日々を丁寧に過ごすことにしましたからね。
そういうことで、恥ずかしながら人生で初めて自ら紅葉狩りの計画を立てます。タイミングを逃さぬよう、とある寺院の大楓の色付きをインスタで入念にチェック。まずは、その1本の大楓を愛でてみようと決めたのです。
秋の某日、いよいよ紅葉のベストなタイミングがやってきました。しかしながらその前夜、非情にも強めの雨風に見舞われてしまいます。あ〜自然現象とはこのように読めないものよね…と消沈気味でしたが、ある程度の落葉は否めないと予定どおり現地へ向かいました。
目的の大楓は福岡県糸島市雷山に鎮座する千如寺にあります。雷山は、福岡県と佐賀県の県境に位置する自然豊かな山です。古来、山全体が雷神の鎮座する霊山と考えられたため「雷山」の名を持つそう。アクセスもよく、福岡市内より車で40分、博多駅より地下鉄とバスを利用しても1時間20分のところです。
山間を走行してしばらくは、紅葉の色付きは然程進んでいるようには見えません。
ん?紅葉まだじゃない?今朝も紅葉が進むほどの冷え込みは感じなかったしねと。
ですが、寺院の少し手前の駐車場に車を停め外に出ると、ひんやりした空気が漂っています。さらに寺院に向かって歩いていると、下山する登山者とすれ違います。そして膨らんだ期待どおり、門前は紅葉で覆われていました。
いや、まてまてー、お目当ての大楓は寺院の中だからと気持ちを抑えながら、拝観料を支払って寺院に入ります。靴を脱いで丁寧に棚に並べ、順路に従い建物を2つ通り抜けます。そして、次の客殿の前庭に進んだその時に、大楓が姿を現しました。おおー!うまいこと言えません。おおー!
なんでしょう、この大楓1本だけが、暖色系の絵具を思いっきり塗ったように(荒くいうと、ぶちまけたように)見えます。こちらの楓は、樹齢約400年といわれる福岡県の天然記念物です。
やはり昨晩の雨風の影響で前庭の枯山水が見えないほど落葉しています。ですが、これが真っ赤な絨毯のようでなんとも風情があります。
写経ができる空間になっている客殿の縁側に腰を下ろすと、屋根と柱がまるで額縁のように大楓をおさめています。
しばし愛でていると、初心者にはいくつかの疑問が湧いてきます。「楓」と「もみじ」の違いは?人はなぜ紅葉に惹かれるのか?
まず、楓ともみじの違いなのですが、分類上は同じ「ムクロジ科カエデ属」の植物。通常は葉の見た目でそれぞれを見分けているようです。ざっと見分けるとなると、葉に深い切れ込みが入っているのが「もみじ」と呼ばれ、それ以外の切れ込みが浅く葉先が細かな形状をしているものを「楓」とするそうです。違いを知った途端、マジマジと落ちた葉をガン見します。
それと、人が紅葉に惹かれる訳ですが、一つはその色ですよね。暖色系の色は色彩心理学的にもポジティブで好意的な色といわれます。また、色素のシステム的には光合成を続けてきた葉緑素が低温によって壊れて、アントシアニンの赤い色素が目立っていくわけなのですが、その散りゆく寸前のわずかな瞬間に赤く染まる様子が、儚くて心情的に刺さるんですね(と、勝手に解釈)。
そんなこんなで、客殿の縁側に根が生えそうになり、せっかくだからご本尊を拝観すべく奥に進みます。寺院は山の斜面に建てられてるため、通路は階段になっているところが多いです。
千如寺には国指定の重要文化財が2体あります。一体は十一面千手千限観世音菩薩立像で、カヤ材の寄木造りのご本尊(撮影禁止)。像高約4.63mだけのことあって真下から見上げても私では全体像は把握できないほど。
もう一体は、敷地内の最も高い位置にある開山堂に奉安される、ヒノキ材の寄木造りの木造清賀上人坐像です。どちらも鎌倉時代後期作ということです。
開山堂からは、寺院全体だけでなく、五百羅漢像も一望できます。ちなみに、五百羅漢とは仏陀に付き従った500人の弟子なので、全ての像の表情は違っています。もしかしたら、自分に似た像もあるかもしれません。
がむしゃらに走ってきた人生でしたが、ふとゆとりを持つと「紅葉を愛でる」という嗜みが追加されました。来年は写経しながら、愛でてみてはどうかと思いが膨むばかりです。
雷山 千如寺 大悲王院 http://www.sennyoji.or.jp/