アラフィフ新境地#3 「秘湯へは熊除け鈴を持って」北海道 銀婚湯
50代を丁寧に過ごそうと決意した編集者が、日々を見直したり!非日常の旅をしたり!新しいことにチャレンジしたり!そんな新境地で得た、ニッチでトリビアな雑学を綴ります。
「日本秘湯を守る会」っていうのがあります。昭和50年4月、「秘湯」という造語を生み出した、故岩木一二三氏の提唱により、交通の不便な小さな山の温泉宿33軒が集まり創立されたそうです(日本秘湯の会HPより)。今では150件ほどの秘湯を持つ宿が登録されています。この会は、登録されている宿10軒に宿泊しスタンプを10個集めると1泊無料招待という面白い特典があるんです。そう、なかなか壮大なスタンプラリーなのです。私はというと、実はまだスタンプは1個なのです。次のスタンプを集めるべく、秘湯に行くチャンスをひたすら狙っていました。
そうして、秋の某日にそのチャンスがやってきました。向かう秘湯は、北海道二海郡八雲町にある上の湯温泉「銀婚湯」。調べたかぎり、どんなルートを辿ってもとにかく遠いのです。だから秘湯なんだ〜と期待が膨らみます。
まずは、飛行機で千歳空港に降り立ち、レンタカーを借りて函館方面を目指します。もちろん、千歳周辺ではちゃっかりラーメンを食べて。さて、今回の目的地までの距離は約220Kmほどの3時間のコースです。そのほとんどを高速道路を走行します。ここで、ちょっと失敗したのが、レンタカーの車種でした。できれば、北海道の単調な長距離を運転するにはランクアップしておくべきでした。宿に到着するころは、そりゃもうヘトヘトで…
苫小牧、登別、洞爺湖、長万部と寄り道したい気持ちをグッと抑えながら、ひたすら目的地に向かいます。それでも、到着は日暮れギリギリです。
そうそう、「銀婚湯」はオンラインでの予約はできません。なので、予約申し込みはFAXを使います。すると、とても丁寧な予約確認の電話が折り返しかかってきます。こんなところからして秘湯感が漂いますね。
高速道路を落部ICで下りて、上の湯温泉方面の山間部に入っていきます。進むこと15分くらいで右側に大きな看板で「銀婚湯」とあります。
全く迷うことなく到着します。あれ?秘湯なのに案外すんなり到着したなって感じです。
実は、「銀婚湯」の秘湯は、隠し湯巡りなんです。なんと、その敷地は9万坪もあり、一周すると1時間はかかる広さです。正面入り口からして、奥に続く敷地の広さが伺えます。
隠し湯巡りは、日中のみです。なぜかというと、それは明かりもなく危険だからです(そう、熊が出そうな⁇)。残念なことに、この日は夕暮れ間際に到着したため隠し湯巡りは翌朝行うことになりました。その夜は、宿のお料理とともにお酒をいただきます。
地の物を使ったお料理と地酒の相性は抜群で、ついついお酒がすすみます。
さて、翌朝はお待ちかねの隠し湯巡りです。早々に目が覚め、6時からいそいそと出かけます。隠し湯へは熊よけ鈴のついた札(鍵)を持って向かいます。これが、熊の存在を一層リアルにします。
森への入り口は朝なのに薄暗く、広大な敷地へ足を踏み入れると人の気配が薄らいでいきます。森の奥へ歩くにつれ、森のシンシンとした音が耳を支配します。すると、急に得体の知れない者への恐怖が湧き、必要以上に札をぶんぶん振って熊よけ鈴を鳴らしながら歩きます(むしろ、そのほうが動物が寄ってきそう)。
しばらく歩くと、「つり橋」の矢印が現れます。矢印の通り進むと、想像より立派なつり橋が現れます(おお!頑丈そう!)。
ところで私の格好ですが、旅館の浴衣に温泉セットをぶら下げ、宿で用意されたクロックスを履いています。その姿でつり橋を渡る姿はなかなかシュールなものです。しかも、思ったより長く、まあまあ揺れます(うぅー揺れに弱い…)。
ふたたび歩きはじめると、森の風景が単調ではないことに気付きます。おそらく、白樺や紅葉、他に数種類の木が生育していて、いろいろな森の姿を見せてくれます。こんなことなら、もう少し植物の知識があればよかったなと反省。
朝ということも重なって、この自然がたまらなくおいしい空気を味あわせてくれます。“最高の朝“ってこんなコトなのかもしれないと思うほど。ただ通り抜けるには勿体なく、ゆっくりと歩きます。
さらに15分ほど歩くと、今までの森の匂いとは違うものが微かにします。すると、森に溶け込む何やら小屋のような物と「トチニの湯」の立札が見えてきます。なかなかのDIYぶり!いや、超えてます。
恐る恐る門戸から入り中を覗くと、そこには想像以上の野湯が二つ!落葉の浮かぶその湯に手を入れると、思ったよりぬる目です。
ここで、少し葛藤します…ここで素っ裸で湯に浸かるということは、熊に襲われたら裸で逃げるということ、ちょっとした勇気が必要です。しかも、門戸以外に塀はありません。覗き見しようと思えば、それは覗き見ではなく、むしろ丸見えです。
しかし、ここまで来たからにはー「えい、やっ!」っと、服を脱いでスタタッと湯にイン!浸かるやいなや、先ほどまでの葛藤は一瞬で去ります。なんと、目前には落部川が広がっています。川幅が広く勾配のない川は、あまり音を立てずに流れています。まるで時間の刻みが全く違う世界にトリップした感じです。
湯に浸かり身動きせずに眺めていると、突然、野鳥が川面スレスレまで下降し、バタバタッーザッバァーと水しぶきがあがりました。野鳥が見事に魚を咥えて飛び立つとともに、その音は響き渡ります。素っ裸なまま、自然の中に同化していくような気分になった瞬間でした。そう、銀婚湯は自然に溶け込む湯なのだと。
他にも、銀婚湯の隠し湯は個性的な粒揃いです。
まるでトムソーヤの冒険に出てきそうな野湯たち。
ところで、「銀婚湯」という宿名の由来ですが、初代当主の川口福太郎が大正14年5月10日に開堀し熱湯の大量湧出に成功したそうです。時あたかも、大正天皇銀婚の佳日に当たったため、奥さんの発案で自分たちの銀婚式を重ねて「銀婚湯」と命名。
それから、多くの銀婚式のご夫婦が来るようになったそうなのですが、銀婚湯に泊まると末永く夫婦が仲睦まじく暮らせるという噂になり、新婚夫婦も訪れるようになったそうです。(銀婚湯HPより)
これからも「日本秘湯を守る会」の秘湯へのチャンスを狙いながら、日々を精進していこうと思うアラフィフ旅でした。